強い牝馬たちが、これほど力を見せつけた時代がかつてあっただろうか。コロナ禍のなかつづけられた2020年の中央競馬を締めくくったのは、芦毛の女傑だった。 【名作】武豊に聞く。ディープインパクトは サイレンススズカを差せるのか。 第65回有馬記念(12月27日、中山芝2500m、3歳以上GI)で、北村友一が騎乗する1番人気のクロノジェネシス(牝4歳、父バゴ、栗東・斉藤崇史厩舎)が優勝。昨年のリスグラシューに次ぐ、牝馬として史上2頭目の春秋グランプリ制覇をなし遂げた。首差の2着となったのも牝馬のサラキア。今年の牝牡混合GIで牝馬が勝ったのはこれが9度目、うち牝馬によるワンツーフィニッシュは4度目となった。
ゴールまで800m以上、動き始めたクロノジェネシス
3コーナー手前から、有力馬による激しい攻防が繰り広げられた。 単騎で逃げたバビットに、オーソリティ、ブラストワンピースがつづく。直後にフィエールマンがいて、少し後ろの中団馬群の内にワールドプレミア、外にはカレンブーケドール、ラッキーライラックらが、いい手応えでつけている。 その後ろに、北村のクロノジェネシスがいた。先頭からは6馬身ほど。 「いつもどおりの自然体を心がけていました。折り合いもスムーズでしたし、いつものクロノジェネシスの感じで走ることができていました」 そう話した北村は、クロノジェネシスを軽く促し、外からスルスルとポジションを上げて行った。まだゴールまで800m以上ある。動くのが早すぎるようにも思われたが、北村に迷いはなかった。 「昨日、今日と中山の2500mのレースに騎乗させていただいて、自分のなかでいいイメージを描いて競馬をしたつもりです」 もし負ければ、これを敗因とされかねない早仕掛けだが、デビューからずっと騎乗してきたクロノジェネシスの能力に対する絶大な信頼が、自信満々の騎乗につながったのだろう。
「奇跡のラストラン」オグリキャップを彷彿させる
動いたクロノジェネシスをキセキが追いかけて行った。が、さらに2馬身ほど後ろにいた松山弘平のサラキアは、ここではあえて動かず、脚を溜めた。 クロノジェネシスは余裕のある手応えのまま3、4コーナーを回り、ラスト600mで前を2馬身ほどの射程にとらえた。有馬記念の勝負どころで外から楽に前に並びかける芦毛の姿は、1990年に「奇跡のラストラン」で日本中を感動させたオグリキャップを彷彿させるようでもあった。 クロノジェネシスは、内のカレンブーケドールと併せるような形で直線に向いた。 直線入口で、フィエールマンがバビットをかわして先頭に立った。その外にカレンブーケドール、さらに外にクロノジェネシスがいて、雁行状になっている。 フィエールマンとクロノジェネシスが抜け出した。2頭は馬体を離して叩き合う。 ラスト200m地点でクロノジェネシスがフィエールマンに並びかけ、突き抜けるかに見えたが、フィエールマンも簡単には抜かせない。 大外から、エネルギーを溜めていたサラキアが凄まじい脚で追い上げてきた。 クロノジェネシスが内のフィエールマンを競り落とした。さらに、外から襲いかかってきたサラキアを押さえ込み、先頭でゴールを駆け抜けた。
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