2020年の総括ともなる全日本選手権が12月25-27日、長野のビッグハットで行われた。
男子は羽生結弦が5年ぶりに王者を奪還し、宇野昌磨が2位。シニアデビューの鍵山優真も、ショート2位からの銅メダルで存在感を示した。コロナ禍での葛藤、北京五輪への夢、今季の引退、それぞれ悲喜こもごものドラマの詰まった3日間だった。
男子は、羽生と宇野のトップ2選手が今季初戦。そこに17歳の鍵山がどこまで食らいつくか、という展開が予想された。そして蓋を開けてみれば、羽生の美しさと強さが、全選手にエネルギーを分け与えるような、圧巻の一戦だった。いま振り返れば、羽生の逆境力はこれまで何度も証明済みだったのだ。
地元の仙台で孤独に練習を続けていた
羽生は昨季の世界選手権がキャンセルとなった後、トロントの拠点から帰国し、地元の仙台で孤独に練習を続けていた。新プログラム2つはリモートで振付をしてもらったものの、細かい振付は自分でやるような状況だった。
「毎日ひとりでコーチ無しで練習していました。悩み始めると負のスパイラルに入りやすいなと思いました」
励まし合う仲間も、鼓舞してくれるコーチもいない。
「昨季の(2位となった)全日本やグランプリファイナルのこともあり、自分が成長していないんじゃないか、戦えなくなっているんじゃないか、という思いもあって、戦うの疲れたな、と思ったんです。辞めることはいつでも出来るな、と」
悪い思考は、身体へと現れる。
「トリプルアクセルすら跳べない時期がありました。どん底の時期は、結構長くて、10月終わりくらいまでありました」
「もうちょっと自分のために競技を続けてもいいのかな」
立ち直るきっかけになったのは、練習の合間に滑った2つのプログラムだった。
「(エキシビションの)『春よ、来い』と、(8~11歳の頃の)『ロシアより愛を込めて』のプログラムをやった時に、なんだかやっぱりスケートって好きだな、スケートじゃないと自分はすべての感情を出し切る事が出来ないな、だからもうちょっと自分のために競技を続けてもいいのかなって思ったんです」
戦うためのアドレナリンが出始め、1つずつジャンプを取り戻していく。手探りのなか、11月24日のエントリー期限はやってきた。
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