日本銀行が金融政策正常化に向けて動き始める中、金利上昇を先取りする形で地方銀行が預金獲得に向けて動き出した。主にスマートフォン(スマホ)サービスでメガバンクより高い預金金利を提示し、東京や大阪など、都市部のユーザーを囲い込み始めている。地域金融の枠を超え、ネット専業銀行に戦いを仕掛けている。
中でも勢いを見せるのが島根県の第二地銀、島根銀行だ。同行は2022年9月に「しまホ!」のネーミングでネットバンキングアプリを立ち上げ、同アプリの利用を前提とする「スマホ支店」を開設した。同支店の普通預金の金利を0.25%という業界最高水準に設定したところ、わずか1年2カ月で500億円集まった。
しまホ!は、全国のセブンイレブンやローソンのATMからもアプリのQRコードを通じて預金の引き出し・預け入れができる。そのため島根県外の東京・大阪といった都市部からもユーザーが集まっている。メガバンクの普通預金金利0.001%の250倍という破格の金利水準が呼び水となった格好だ。
島根銀行スマホ支店以外の支店で口座開設すると、普通預金金利は0.001%のままだ。スマホ支店は実店舗を持たない分、運営コストが下げられるからという理由で、金利が高めに設定されている。
金利を高めに設定している例としては、東京スター銀行も普通預金の金利を0.25%に設定している。だが「給与受取口座または年金受取口座」という条件付きで、そうでない場合は0.001%のままとなる。
このスマホ支店の野中駿平支店長は「しまホ!は、金利水準を高く設定する代わりに、機能を最小限に抑えた。印鑑、通帳、キャッシュカードも全て廃止しているが、利用者に大きな魅力を感じてもらえている」と語る。アプリ利用者の中心年齢は40〜50代で、対面型の店舗の利用者60〜70代より若い。デジタルサービスに抵抗感を持たない層が中心となっている。
1年強で500億円を集めた「しまホ!」。島根銀行歴代最年少でスマホ支店の支店長に就いた野中氏
「しまホ!」のシステムは、19年に資本業務提携を結んだSBIホールディングスが提供している。今後、島根銀行は他店舗の入出金管理などに関しても、SBIグループが開発したクラウドベースの勘定系システムに移行する。そのタイミングで「しまホ!」のアプリもバージョンアップする予定だ。スピード感を持った開発をエンジニアたちと進める狙いもあり、野中氏は32歳の時にスマホ支店の支店長に抜てきされた。島根銀としては歴代最年少での支店長誕生となった。
島根銀のように、「攻める地銀」は他にもある。東京都内を地盤とする旧東京都民銀行や旧新銀行東京などが合併して誕生したきらぼし銀行の親会社である東京きらぼしフィナンシャルグループのスマホ銀行、「UI銀行」はその代表だろう。同行で3月29日までに口座開設すると、期間1年の定期預金(1000万円未満)の金利が0.35%となる。メガバンクを含む他行では、1年定期の金利は0.002%が主流であるだけに、破格の金利設定だ。
一方、ふくおかフィナンシャルグループ傘下のみんなの銀行は、残高が基準額以上だった場合、普通預金よりさらに有利な金利設定となる貯蓄預金「ボックス」で攻めている。こちらもUI銀行と同じスマホ完結型の金融サービスで、Z世代の利用者獲得を目指してきた。貯蓄預金の金利はプレミアム会員ならば0.3%と、業界最高水準に設定している。
銀行業は今後の金利上昇局面で、貸し出しや運用による収益改善効果が期待されるも、その原資となる預金の獲得競争は激しさを増しそうだ。とりわけ、少子高齢化や人口減少が進む地方を営業基盤にビジネスを展開する地銀は、預金獲得のため、これまでの守備範囲以外のエリアにも「越境」していく必要がある。
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