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Thursday, June 15, 2023

米アップル預金は中国アリババの余額宝を超えるか - 日経ビジネスオンライン

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アップル経済圏はどこまで広がるか。写真はアップル年次開発者会議「WWDC 2023」に登場したティム・クックCEO(写真=AFP/アフロ)

アップル経済圏はどこまで広がるか。写真はアップル年次開発者会議「WWDC 2023」に登場したティム・クックCEO(写真=AFP/アフロ)

 2023年4月17日、米IT大手のアップルは米金融大手ゴールドマン・サックスと提携して開始した新しい預金サービス(以下「アップル預金」)を開始した。利率が全米平均(0.3%台)の10倍以上となる年4.15%に設定されたことで国内外から大きな注目を集めた。

 同社が提供する米国在住者向けのクレジットカード「アップルカード」の利用者が対象で、スマートフォン「iPhone」のウォレットからすぐに開設でき、資金移動も簡単だ。普通預金であるため流動性も高い。

 このような優位性を背景に多くの資金が集まっている。米経済誌Forbesによると、サービス開始後わずか4日間で9億9000万ドルの預け入れがあり、口座数は20万を超えたという。

 ちょうど10年前の13年6月、中国でも巨大プラットフォーマーが始めた金融商品が市場を騒がせたことがある。アリババ系フィンテック企業アントグループの「余額宝」だ。

※「余額宝」の導入背景や仕組みに関しては「中国モバイル事情 決済を制する者が市場を制す」を参照。

「余額宝」人気の理由

 余額宝はリリース直後から多くの投資家から注目を集め、ユーザー数、投資金額は急速に拡大していった。サービス開始から約半年後の13年末には中国最大のMMF(マネー・マーケット・ファンド)にまで成長し、わずか1年後の14年6月末には、残高で5700億元、ユーザー数は1億人を超えた。英紙ファイナンシャル・タイムズによると、17年には運用額が1656億ドルに達し、当時1500億ドルだった米JPモルガンの米国政府系MMFを超えて世界最大規模にまで成長した。

余額宝の人気の秘密は何か。

 まず挙げられるのが利便性の高さだ。従来型の投資信託や理財商品(財テク商品)を購入するには、わざわざ銀行に赴き、身分証明書の確認や書類の記入・サインなど、煩雑な手続きを経る必要がある。

 一方の余額宝は、銀行口座から余額宝アカウントに直接入金するか、アリペイのアカウント経由で資金を移動するだけで利用できる。新しい操作方法を覚える必要もなく、パソコン(PC)やスマホで「余額宝に送金」ボタンをクリックするだけだ。さらに、ユーザーがネット通販で買い物をする場合、わざわざ資金をアリペイ口座に戻さなくても、余額宝のアカウントから直接支払うことができる。

 次に、気軽さも挙げられる。「資産運用」と聞くとハードルが高いと感じる人は少なくないはずだ。余額宝は、即日の購入・解約が可能で、1元からでも気軽に投資ができ、取引手数料もかからない。これが、銀行では相手にされなかった、アリペイのメインユーザーである若者たちを強くひきつけた。余額宝がリリースされると、普段はあまり投資に興味のないような、私の大学の教え子たちすらもこぞってこの余額宝に資金を移していた。

 また、収益性の高さも大きな魅力の一つだ。余額宝の主な運用先は比較的リスクの小さい短期金融市場で、安全性がきわめて高いにもかかわらず、運用利回りは銀行の定期預金より高く、しかも利息金が毎日、支払われる。実際に、余額宝で資産運用をしていない中国人アリペイユーザーに今まで出会ったことがない。

 このようにアップル預金と余額宝は、具体的な仕組みや提携金融機関など細かい点は異なるが、豊富なユーザーを抱える巨大プラットフォーマーが、比較的高い収益性や流動性、利便性を兼ね備えた金融サービスを提供し、多くの資金が集まっているという点では共通している。

経済環境も類似

 サービス開始時期の経済環境を見てみると、物価や金利、市場リスクなどの面でも似通った点が多い。

 最近の米国の状況を見てみると、新型コロナウイルス禍に対応するための大規模な経済対策で膨大なマネーが注がれたことなどを背景に、インフレが深刻化し急ピッチの利上げが進められた。また、地方銀行の破綻が相次ぐなどリスクも高まっている。

 一方の余額宝が誕生したのは、08年の世界金融危機に実施した4兆元(当時の為替レートで約57兆円)規模の大型景気刺激策の副作用で、物価が急上昇したあとだった。

 物価上昇局面においても預金金利が低い水準に抑えられた状態が続き、預金利子率の実質値はマイナスに陥った(図表1)。また、余額宝がリリースされた13年6月は、中国の金融市場は当時「銭荒」と呼ばれた流動性危機に直面しており、深刻な資金不足に陥った金融機関による利上げが相次いだ時期だった。このような背景もあり、銀行預金の代替えとしての理財商品が一般的に注目され始めた。

(図表1)中国における実質預金利子率の推移

(図表1)中国における実質預金利子率の推移

(出所)中国国家統計局、中国人民銀行 (注)消費者物価指数(CPI)は前年同月比、実質預金利子率は1年もの定期預金金利からCPIを差し引いて算出した。

アップル預金は銀行預金の流出を招くか

 余額宝の登場によって問題視されたのが、銀行預金の流出だった。実際に、余額宝の年末残高と家計部門における人民元預金の伸び率を見てみると、余額宝のサービスが始まった13年および残高が大きく増えた14年、17年においては、人民元預金の伸び率はマイナスとなっている(図表2)。逆に、余額宝の残高が大幅に減少した18年の家計部門における人民元預金の伸び率は前年比で60%近く高まっている。

(図表2)家計部門の人民元預金伸び率と余額宝の規模

(図表2)家計部門の人民元預金伸び率と余額宝の規模

(出所)Wind

 米シリコンバレーバンク(SVB)は巨額の資金流出が引き金となり破綻に至ったが、アップル預金の登場によって一部の銀行からの更なる預金流出が懸念されている。

 確かに、収益性や利便性において他の銀行よりも優れているアップル預金への資金流入は今後も続いていくと考えられる。しかし、そのインパクトは余額宝には及ばないだろう。

 その理由が潜在顧客の規模の違いにある。アップル預金を利用できるのはアップルカードの利用者に限られている。報道によると、米国におけるiPhoneの利用者は1億人を超えているものの、アップルカードの利用者は約670万人(22年初頭時点)にすぎない。一方の余額宝は10億人を超えるアリペイユーザーが利用可能となっている。

 このようにアップル単体だけでは影響は限定的になるとみられるが、アマゾンやグーグルなど、他のプラットフォーマーが同様のサービスを提供し始めれば、銀行にとっては大きな脅威となるだろう。実際、中国でも、余額宝の成功を受けて、テンセントの「理財通」や百度の「百賺利滾利」など、他のプラットフォーマーも相次ぎ投資ファンド会社と提携して類似商品販売を開始した経緯がある。今後の動向に注目したい。

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